2018年11月10日土曜日

韓信外伝 -春秋の光と影 (楚王逃亡)


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アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい

Kensin1

メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、 
良いかな・・・

Kansin

春秋末期の楚は、愚者たちによって
統治されていた。
能者は他国へ流れ、賢者はそねまれ死を
強要される。
しかし変革に立ち上がった者たちにも行動に
統一性は見られないのであった。

ある者は祖国を改革しようとし、ある者はあえて
祖国を滅ぼす、と主張する。
彼らはそれぞれに信念があり、正しかった。
誰が間違っていたというのか。 ・・・

韓信外伝 -春秋の光と影 (楚王逃亡)

「兄上」決断した闔閭の前に、ひとりの男が進み出た。
闔閭の弟、夫概ふがいである。
外見的には、とりたてて特徴のない男である。

背は高からず低からず、目は大きからず小さからず、
体は太からず細からず……能力的にも、
これまで闔閭は弟に助けてもらったためしがない。

先の王である僚を暗殺して王位を奪ったときも、
彼を助けたのは専諸であり、弟は一切関知していなかった。

その弟である夫概が、このとき初めて自分の意志を
示そうとしたのである。が、闔閭はこの弟のことが、
まるで眼中になかった。少なくともそのときまでは。

「私も兵を率いて、従軍したいのです」
夫概は遠慮がちながらも、そう主張した。だが、
それに対しての闔閭の反応は鈍い。
「お前が? なぜ」いまさら、という気持ちであったのだろう。

闔閭は、この夫概の希望をにべもなく拒否した。
待機を言い渡したうえで、夫概の所有する軍勢五千人を、
自らの所属としたのである。

夫概は当然の如く、これに不満を覚えた。
邪険にするにもほどがある、と。しかしそれは、
誰が見ても当然の沙汰であった。

呉軍の進撃が続いた。楚の人々が誰も知らぬうちに、
もともと従属国であったはずの唐や蔡が呉の側に
靡いており、誰もがその事実に恐怖した。

呉と楚は五度の会戦を経験し、そのすべてが
呉の勝利に終わった。いま、呉軍は郢に近づいている。

「郢は危機を迎えようとしています。お逃げください」
包胥は嬴喜を前にして、言葉少なに状況を説明した。
だがもちろん嬴喜は、言われるまま従おうとはしなかった。

「私と軫さまは、国に対して責任ある立場です。
そのような立場にある者が、そそくさと逃げ出して
よいものでしょうか」
嬴喜の表情には、やや怒りが込められている。

それは珍しいことであった。包胥はそのことに
驚きを隠せなかったが、しかし……彼女の言うことは
正論のようであって、そうではない。

「王さまと、あなた様のお命が失われたとき、
誰が国に対して責任を持つとおっしゃるのですか。
しかも……そもそも国というものは、人の集合体です。

たったひとりやふたりで責任を負えるようなものでは
ございません。どうか……私の言うことをよくお聞きになり、
お逃げくださるようご決断ください」
包胥の語り口に熱がこもり始めた。

隣に控える奮揚は、彼がどう嬴喜を説得するかを
注目した。不謹慎ながら、興味を持ったのである。
包胥どのの唱える「道」の神髄を、太后さまが
理解しうるか……。

おそらく包胥どのにとっては、もっとも理解して
もらいたい相手であるに違いない。
なぜなら、このふたりは惹かれ合っているのだから
……。しかし、事態が深刻であることに変わりはなかった。

奮揚はその思いを表情に出さず、ふたりの会話を
見守った。「……呉はもともと我が楚の従属国であった
唐国と蔡国を従え、国境を侵しました。

今回の出兵には呉王闔閭が親征していると
聞き及んでおります。その軍勢を迎え撃った
令尹嚢瓦は、柏挙はくきょの地で戦いに敗れ、
鄭に逃れました。

すでにその後、楚は五度も呉軍に敗れ、
今に至っております。……

伍子胥が来ます! あの、復讐に怒り狂った男が! 
すでに平王さまはお亡くなりになっておりますが、
それで諦める彼ではない。

彼は、平王さまへの復讐の代わりに、あなた方の
お命を狙う。絶対に見つかってはなりません。
彼に……復讐を遂げさせてはならないのです!」

包胥の言葉は脅迫めいていたが、随所に彼の
心の中にある人間愛をうかがわせるものであった。
彼は、伍子胥の手から嬴喜と、その息子の楚王軫を
守ろうとするばかりでなく、敵である伍子胥その人をも
救おうとしているのである。

それは、かつて彼が伍子胥と友人関係にあったからか、
それとも人が悪に陥るさまを見たくないという気持ちからか
……奮揚には、その双方のように思えた。

だが、嬴喜は包胥の思いをわかっていながら、
それに反発しようとした。

「あなた様は、どうするつもりなのです。仮に私たちが
郢を脱出するとして、行動を共にしてくれるのですか」
それも重大な問題であることには違いない。

王と太后のふたりだけに逃避行をさせるほど、
危険なことはないのだ。道中で彼女らになにかが
あったとしても、それを知る者がいなければ……

誰かが彼女らの身を守らなければならない。
「残念ですが、私はこの国の大夫のひとりとして、
呉と戦わなければなりません。
同行することはできません……。

代わりと言ってはなんですが、ここにいる奮揚が、
その役を担います。どうか、彼を私だと思って
信用してください」

奮揚は、突然の包胥の発言に驚いてしまった。
武人たる彼に与えられた役目は、王族を守ることであって、
戦場に立つことではなかったのである。

「包胥どの、役目が逆ではないのか。
君にもしものことがあれば、太后さまはどうなる。
もともと武人である私を差し置いて、武人ではない君が
戦場に立つとは、いったいどういう料簡なのだ」

包胥の考えが理解できず、口調がしどろもどろに
なりかけた奮揚であった。
しかし彼は、その後にひとつの考えに思い至る。

包胥どのは、伍子胥と対決しようとしているのだ。
自らの手で彼を救おうと……。
その考えを裏付けるように、申包胥は奮揚に向かって
言い放った。

「以前、私と伍子胥はお互いの考えを打ち明け
合ったことがあった。彼はそのとき、『楚を潰す』
とはっきり言った。

それに対して私は、『楚を生き存えさせる』と返したのだ。
これは、私と伍子胥の対決なのだ。
結着をつけなければならない」

・・・つづく


愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る・・


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「え!?まただ」
小百合は、車のハンドルを握りながら、その偶然に
驚いた。 ことの起こりは、一ヶ月ほど前のことだ。

大沢小百合、22歳。 地元の大学を卒業して、
念願の保育園に勤めている。
ところが、一つ問題があった。車の免許を
持っていなかったのだ。 

自宅から保育園までは、電車と徒歩だと、
二度も乗り換えた上に、 グルッと遠回りして
2時間近くもかかってしまう。

就職が決まると自動車学校に通い始めたが、
元来の運動オンチ。 3回も仮免に落ちてしまった。 
周りの友達からは、「どん臭いなあ」
と言われ、落ち込んだ。

そして、新学期の始まるぎりぎりになって、 
免許証を手に入れることができたのだった。

小百合は、慌てて中古車センターで真っ赤な
軽自動車を買い、 ローンを組んだ。

ところが、ただの若葉マークではない。
運動オンチが、 どうにかこうにか手に入れた免許証だ。 
バックの車庫入れはもちろん、信号で右折するたびに
心臓が高鳴った。 通勤を始めて3日目のことだった。

朝の通勤時間帯は、町の中を南北に貫く
片側一車線の県道は渋滞しっぱなし。 
ノロノロとしか動かない。運転席では誰もが
イライラして、 ヒゲをそったり、新聞を読んだり
している者さえいる。

その県道を南下して、途中、右へ曲がってしばらく行くと
保育園にたどり着く。 その交差点には信号がない。
それどころか、路地のような狭い道路で、 
左右から来る車はほとんどない。

小百合が右折しようとしてウィンカーを出すのだが、 
正面からやって来る車は、誰も停まってくれない。
チカッ、チカッ、チカッ。

ウィンカーが何度も鳴る。振り返る余裕などないが、 
どうやら小百合の後ろは大渋滞を引き
起こしているようだ。

チカッ、チカッ・・・。
焦った。なんとか右に曲がろうとするが、誰も
譲ってくれない。 本当は、少しでもセンターライン寄りに
停車すれば 後続の車も追い抜いてゆくことができる。 
しかし、小百合にそんな芸当は無理な注文だった。

プァーン。
後ろの車が、クラクションを鳴らした。 
身の縮む思いがした。

その次の瞬間のことだった。 一台の大型トラックが
小百合の車の前で停まった。

ピカッピカッ!
大きなヘッドライトが二度光った。 (助かった) 
小百合は、夢中でハンドルを切っていた。 
保育園の駐車場に車を止めて気が付いた。 
手のひらどころか、全身冷や汗でぐっしょりだった。

こんなことがあるのだろうか。 二度あることは三度ある。
小百合はたった10日間のうちに、 三度も同じ(?)
と思われる大型トラックに救われた。

「え!? まただ」
二度目までは気が付かなかったが、今日、それが
同じトラック、 同じ運転手であることを確信した。

相手も、同じ時間帯に仕事で同じ道を通るのだろう。 
それにしても、なんて優しい・・・。

チラッと見ると、黒いサングラスをかけた、 
マッチョな中年男性がハンドルを握っている。

小百合は、この人に直接「ありがとう」を言いたかった。 
ちょっと大袈裟だけど、命の恩人くらいに感じていた。

(なんとか恩返しがしたいなあ)
しかし、どこの誰かもわからない。ナンバーも覚えていない。 
道路を走っていても、歩いていても、 似たような
トラックが走っていないかとキョロキョロ探す。

そう思いつつも、新人として子供たちの世話に
追いまくられる日々を過ごすうちに、 2年近くが
経ってしまった。

そんなある日、小百合が日曜日に近くのスーパーに
出掛けた時のことだった。 買い物を済ませて、
自分の車へと歩き始めると、

ブーブー。と駐車場にクラクションが鳴り響いた。 
見ると、一台の乗用車が立ち往生している。 
運転席にはかなり歳を取った男性がハンドルを
握っている。

助手席の奥さんと思われるお婆さんが、
窓から顔を覗かせて 周りにペコペコと
頭を下げている。

どうも、狭いスペースに車を止めたのはいいが、 
出ようとして動けなくなったらしい。 
小百合は思わず駆け出していた。

「運転を変わりましょう」

そう言うなり、お爺さんを降ろして運転席に
乗り込んだ。 自分が運動オンチであることなど
忘れていた。 慣れない車のハンドルを何度も、
何度も切り返す。

夢中だった。知らず知らず、歯を食いしばっていた。
「よし!」 車は見事に脱出した。
「ありがとうございます」
老夫婦は何度も何度も、小百合に頭を下げて
お礼を言った。 しかし、早く立ち退かないと、
次々と入ってくる車の邪魔になる。

「何かお礼をさせて下さい」とお婆さんが言った。
「いえいえ、お互い様です。早く出た方がいいわ」 
「それでも、何か・・・せめて住所とお名前だけでも」 
「今度、どこかで困っている人がいたら
助けてあげて下さい」

そう自分で言ってから、小百合はハッとした。
(あっ、これでいいのか) そして、心の中で呟いた。

「サングラスのおじさん。
3回も助けてくれてありがとうね。  
ちゃんと次に回しておきましたよ」・・・



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