2018年10月22日月曜日

韓信外伝 -春秋の光と影(呉の興隆)

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アングラ小説です、不快感がある方は、
読むのを中断して下さい

Kensin1



メジャーでは無いけど、 こんな小説あっても、 
良いかな・・・

Kansin



春秋末期の楚は、愚者たちによって
統治されていた。
能者は他国へ流れ、賢者はそねまれ死を
強要される。
しかし変革に立ち上がった者たちにも行動に
統一性は見られないのであった。

ある者は祖国を改革しようとし、ある者はあえて
祖国を滅ぼす、と主張する。
彼らはそれぞれに信念があり、正しかった。
誰が間違っていたというのか。 ・・・

韓信外伝 -春秋の光と影(呉の興隆)
:罪人を将とす



「では、早速ではございますが…
このたびここにいる奮揚と呉軍撃退のための作戦を
練りましたので、御認可を得たいと思います。
よろしいでしょうか」

「どんな作戦ですか。私には詳しくはわかりませんが、
いたずらに対立を深めるようなものでしたら、
拒否したいと思います。

ですが、もしそれがここに住む人々の生活を
守るためだとしたら、認めたいと思います」
すでに嬴喜は包胥の唱える「道」に感化されて
いるようであった。
奮揚は、そのことをわきまえながら説明を始めた。

「呉軍は我が楚の国境付近に断続的に出没し、
我々はその度に軍を出動させなければならない
事態となっております。

いつどこに現れるかもしれない呉軍に備えるには
国境線に沿って兵を並べるしかありませんが、
それではこの郢の守りが薄くなってしまいます。
もし国境の防衛線を突破されると、そこから一気に
突入される恐れがあるのです」

「はい」奮揚の説明に、嬴喜はあまりはっきりとした
反応を示さなかった。
彼女は、基本的に軍事を考えることを好まなかった
ようである。「この状況をいち早く打開し、なおかつ
最悪の想定を回避するために、我々の側から
呉に攻撃を加えたいと思います。

そこで呉軍にある程度の痛手を与えることができれば、
我々は政治的にも主導権を得ることができます。
無益な政争や戦争に民衆を巻き込むことも
無くなりましょう」

「成功すれば、の話ですね。失敗したら、どうなるのです」
軍事に詳しくない者が、話だけを聞くと当然抱くであろう
疑問である。それだけに、この嬴喜の質問は実に
核心を突いている。奮揚は束の間、返答に窮した。

「…失敗すれば、我が国は領土を失い、そこを
拠点とされて国都を攻撃されましょう。
これまで国境近辺に限定されていた戦いが、
中央にまで及ぶ可能性は、事実としてあります」

「それで、成功の可能性はどのくらいあるのです?」
嬴喜には奮揚を問いつめる意識は無いようだったが、
質問には遠慮がない。奮揚はまたも返答に
窮してしまった。

「成功の確率は、五分五分というところです」
奮揚に代わり、包胥が返答した。
やはり奮揚は、嬴喜の扱いを包胥に任せることにした。

「五分五分の確率で、わざわざ呉の領地に
攻め込む必要があるのかしら。でもあなた様が
そう言うのでしたら、確たる理由があるのでしょう。

それで誰がその軍を指揮するのです? 
まさか、あなた様がそれを行なうというのでは
ないでしょう?」

「ご安心ください。今回私と奮揚は、ここ郢の
防衛に回ります。呉への侵攻は…そうですな、
公子嚢瓦のうがどのにでもお願いしようかと
思っています」

「嚢瓦…令尹れいいんの、ですね。なぜあの方に…」
包胥は嬴喜のその質問に答え始めた。
その返答は長く、内容も驚くべきものであった。 

「嚢瓦は字を子常しじょうといい、かつて令尹であった
公子貞の孫にあたる人物です。
その先祖の威光で現在も令尹の座について
いるわけですが、前歴は輝かしいものとは
言えません。

かつて彼は費無忌の意を受けて、大夫郤宛
(げきえん)を殺害しました。
郤宛は正直者で、そのため人心を得ていた
人物でしたので、彼の死は当時の国民に
大きな衝撃を与えました。

また、このとき彼の甥にあたる伯嚭(はくひ)が逃れて
呉に亡命するという事件も発生したのです。
その伯嚭が、一説によると呉軍の将としてこの楚を
攻撃しているとのこと……」

・・・つづく


愚人は過去を、賢人は現在を、狂人は未来を語る・・


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「ちぇっ」
斉藤隆弘は、中央高速道の左側車線で ハンドルを
握りながら舌打ちをした。

助手席に座っている同僚の田村麻子が訊く。
「どうしたの?斉藤クン」 
「どうもこうもないよ。後ろの黒いワゴンがさぁ、
パッシングしてあおってくるんだ」 
「へえ~」と答えながら、麻子は後ろをチラッと
振り返った。

隆弘は7年前、東京に本社のある大手建設会社に就職。 
この春、岐阜県に建設予定の福祉施設プロジェクトの
下準備を任され、 名古屋支店に転勤になった。

「さっきから、バックミラーを見るたび、チカチカ
するんだよね。 道はガラガラなのに・・・」

隆弘と麻子は、朝一番で福祉施設建設予定地まで
車を飛ばした。 
現地の写真を撮り、地元の役所や法務局を回った。 
残暑が厳しく、全身汗だくだ。

「斉藤クン、何か後ろの車に悪いことでも
したんじゃないの?先にあおったとか」 
「そんなことないよ。いつもオレは安全運転だぜ」 
「そうよね。向こうが酒気帯び運転なのかも」

そう言いながら、麻子は再び後ろを振り返った。
「あら、鳥取ナンバー!ずいぶん遠いところから・・・」 
「え!?鳥取だって?」

それは、隆弘が高校まで生まれ育ったところだった。 
今も両親が住んでいる。
学生時代は、休みのたびに帰郷していた。

しかし、大学のある東京でそのまま就職すると、 
友達などの人間関係はますます東京中心になる。

お盆休みや正月には仲間に旅行に誘われた。 
いつしか、年に一度帰ればいい程度になっていた。 
特に母親がうるさかった。 

夜遅くに会社の単身者アパートに帰宅すると、
留守電が入っている。
「今度は、いつ帰ってくるの?」 
「お盆にはお爺ちゃんのお墓参りをしなさいよ」

そして、
「まだ結婚しないの?」と。
しかし、 3年前に、地元の会社員に嫁いだ妹に
子供ができると、 電話の数も減った。

孫がよほど可愛いらしく、 隆弘への意識が
薄らいだような気がした。 
ホッとするような、少し寂しいような・・・。

「あっ!」麻子が声を上げた。
後ろにぴったりとくっ付いていたワゴンが、 
急に隆弘の車を追い越しにかかったのだ。

「よかった。抜いてくれて」と安心したのも束の間。
今度は、隆弘の車の前に出てきた。 
それも、ちょっとブレーキを利かせて、ぴったりと
車間距離を詰める。 
慌てて隆弘はブレーキに足をかけた。

「え!?斉藤クン。前の車の窓、
何か書いてあるわよ」
麻子に言われて、前に回ったワゴンの
リアウィンドゥを見る。

(何だよ、あれ?)
子供が手に大きな紙切れを持っている。 
それをこちらに向けて何か叫んでいるのが見えた。
もちろん、何も聞こえやしないが。

「あっ、わかった。『ライト』って書いてある!」
「え?あっ、しまった」
隆弘は、慌てて右手でライトを消した。 

麻子が言う。「ダメじゃないの。
いつから付けっぱなしになってたのよ」 
「う、うん。高速に乗る前のトンネルからかなぁ」

「さっきのパッシングは、これを教えてくれて
いたんじゃないの」 
「うん」 「恥ずかしい・・・
酒気帯びだなんて」 「何言ってんだよ。
それはお前が言ったんだろ」

ライトが消えると、男の子がこちらに手を
振るのが見えた。 
小学3年生くらいだろうか。 どうやら、
スケッチブックにクレヨンか何かで書いて
くれたらしい。 

おそらくは、お父さんに言われてやって
くれたのだろう。
「あのさあ、麻子」 「何よ?」 
「後ろの座席にさあ、さっき役所でもらった
観光ポスターがあるだろ」

それは、町役場の観光課へ挨拶に行った際に、 
名古屋支店のビルの玄関にでも貼って欲しい
と渡されたものだった。

「マジックでさあ、裏に書いてくれないか」 
「何て?」 
「うん。『ありがとう』って」
ニヤッと笑い、麻子は、「オーケー」と言った。

「オレがもう一度、ワゴンを追い抜きにかかる。 
追い越し車線でぴったりと横に付けるから、 
その瞬間に左の窓に貼り付けるようにして
見せてやってくれよ」

麻子は手際よくポスターの裏面に『ありがとう』
と書いた。 
見やすいようにと、太く、太く。 
隆弘がアクセルを踏み込んだ。

すぐに返事があった。
黒いワゴンの後部座席の男の子は、 また何か
文字を書いて再びスケッチブックを窓に押し付けた。
麻子が言う。

「『バイバイ』だってさ」
麻子が、助手席で男の子に手を振った。
「きっと夏休みで、家族で旅行に来たのね」

間もなくジャンクションが近いことを知らせる
表示板が見えた。 
黒いワゴンは、右・京都、大阪方面へと
ウインカーを出す。

隆弘は、左・名古屋インター方面へと再び車線を
変更した。 
このまま、鳥取ナンバーの後ろに付いて、
右へとハンドルを切りたい気持ちを抑えて。
プァーン!

一瞬、短い短いクラクションが聞こえた。 
それに応えて、隆弘も一度だけ、クラクションを
鳴らした。 

2台の車が反対の方向へとバンドルを切った。
隆弘は思った。
(今度の正月はふるさとへ帰ろう)・・・




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