2018年10月31日水曜日

妄想劇場・一考編


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過去に起きていることから浮かび上がってくる
真実もある。・・・


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今年の夏も甲子園が終わり、高校球児にとっては、
たったの3回しかない高校野球の夏が過ぎ去って
いきました。
勝ち続けて優勝を手にするのは本当に1校、
惜しくも勝ち続けることができなかった球児が大勢います。
地区予選で負けて泣いた球児もいれば、甲子園に
出場して決勝で涙を飲んだ球児もいたことでしょう。

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今から4年前。野球部員の息子は高校3年生でした。
高校球児の最も重要な3年の夏の県予選を前にした、
5月の練習試合でのことです。

その日はバッティングも守備も調子が良く、監督からも
『この調子ならレギュラーでいける。』
と言われ、なかなかレギュラーになれなかった息子は
やっと努力が報われたと思っていました。

しかしその試合の途中、1塁から3塁への走塁の際に
スライディングした後から、太ももに痛みが出始め、
だんだん激痛にかわっていったのです。

日曜日のため、一旦自宅に帰り、アイシングしましたが
痛みは良くなりませんでした。
翌日病院に行くと、案の定、太ももの筋肉が肉離れを
起こしていました。

お医者様の説明では全治3週間
経過によってはそれ以上かかるかもしれないとのことでした。
主人と一緒に怪我の説明を聞いていた息子の顔が
『全治3週間』と聞いた途端、みるみるこわばり、
落ち込んでいきました。無理もありません。

夏の甲子園、県予選のレギュラー発表前という
高校球児にとって1番大事な時期に怪我をして
しまったのです。
『怪我が治るの、県予選に間に合わないかもしれない。』
もう絶望的な思いだったでしょう。

保険適応ではないのですが、自費治療で高圧酸素
治療をすれば早い回復が期待できるため
受けることにしました。

毎日の学校や病院への送り迎えは夜勤明けの
主人と協力しました。
チームメイトが練習している間はリハビリや上半身の
トレーニングのため毎日病院に通いました。
練習できない息子はどんなに焦り、辛かった
だろうと思います。

そして3週間後のMRI検査の結果、お医者様から
やっと練習開始の許可が出ました、しかし
1週間もしないうちに・・・

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「父さん・・母さん・・・。
今まで自分が野球するのを応援してくれたのに・・・。
レギュラーになれなくって、本当にごめんなさい・・・。
自分が野球をするのに、いろいろと支えてくれて
本当に感謝してる。

毎日お弁当作ってくれたり、父さんは怪我した時に
『治るための治療はしっかりお願いします』って
高圧酸素の治療をすぐに受けられるようにしてくれて、
本当いっぱいいっぱい応援してくれてたのに、
レギュラーなれなかった・・・。

本当にごめんなさい。
今日自分から監督にレギュラー候補を断ったんだ。
怪我のブランクで自分でダメだとわかったから。
ベンチにも入れないけど、怪我をした自分よりも
動けるメンバーがベンチに入るべきだと思うし、
自分はチームが頑張るために他にできること
考えていこうと思うんだ。

応援してくれてたのに、・・本当にごめんなさい」

涙をこぼしながら話す息子を前に主人も私も
思わず涙をこぼしていました。
一番辛い事を、きちんと自分で答えを出し、
監督に伝えてたのです。

そして、主人が
「ごめんなさいって、いうのは違うと思うよ。
自分が今まで本当に努力して頑張ったのに
報われなかった。

こんな時は自分が一番辛くて悲しい気持ちだと思う。
やけになってしまう人もたくさんいる。
でも、お前はちゃんと親に話してくれた。

レギュラー取るのも大事だけど、それが
できなかった時に、チームを支えたい気持ち、
今まで支えてくれた人への感謝を伝えられる。
これは本当に素晴らしいことだとだよ。

すごいことができるようになった。
きっといいチームメンバーのおかげなんだろう。
これからの人生のなかで、絶対に今の思いは
自分の支えになるよ。

こちらこそ、ありがとう。これからは自分が言ったように、
チームの中でお前がみんなを支える方法しっかり
考えていきなさい。
それがチームや監督、みんなの力になるよ。」

息子の野球人生、怪我のために本当に残念な結果に
終わってしまったと思っていました。
でも、主人のいう通りこんなしっかりと感謝の気持ちを
伝えてくれるなんて、本当に我が子ながらとても
感動しました。

努力が報われなかった時に本当に辛かった
だろうと思います。
でも怪我をした息子にきっとチームメイトがいろいろと
声をかけてくれ、支えてくれていたのでしょう。

私も息子にどういう言葉をかけてあげれば
良いのかわからず、ひたすら見守るしかありませんでした。
でも、息子はちゃんと自分で答えを見つけていたのです。
こんなにも素晴らしい事を学んでいてくれていたのです。

その後、夏の県予選大会では後輩達の先頭にたって、
道具運びや試合中の声援でひときわ目立つ
息子の姿がありました。

結果は残念ながら県予選の試合は負けてしまいました。
引退後それぞれの進路に進んでも、も野球部の
仲間とは連絡を取り合い交流が続いています。

結果よりも過程が大切な事もある、と親子で
学んだ夏でした。・・・ 



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エリはお婆ちゃん子だった。
幼い頃から、何かあると一番に、お婆ちゃんに
報告する。
「お婆ちゃん、今日ね、テストで90点取ったよ」
と言えば、「えらいねえ」と褒めてくれた。 

エリの両親は二人とも学校の先生をしていた。
8時よりも前に帰ってきたことがない。 
だから、お婆ちゃんといつも一緒にいた。

特に、夏休みは家にいると一日中、二人きりだった。 
特に今週は、両親とも泊りがけの学校行事で
家を留守にしている。

「行って来ま~す」 
「どこ行くの?」 
「うん、今日も部活」 
「ちゃんと、鏡を見ていきなさいよ」 「
いいよ、どうせ練習したら汗まみれで、
頭もクチャクチャになるんだから」

エリは、中学でバスケットボール部に入っていた。 
夏休みの前半は、朝練がある。
「だめよ、どこでいい男に会うかもしれないんだから」 
「いやだぁ、そんなのいいよ」
と言いながらも、エリはお婆ちゃんの部屋にある
姿見の前に立つ。 

胸のリボンを結び直す。制服のスカート
をポンッポンッと軽くはたいた。
「じゃあ、行って来ま~す」
「はい、行ってらっしゃい」

いつもと変わらぬ朝だった。 
部活の帰り道、リョーコに誘われて、駅の近くの
ファンシーショップに寄った。 

リョーコはキティちゃんにハマっていて、ケータイの
ストラップから文房具、 パジャマまでキティちゃんだ。 
二人で当てもなく店内をぐるぐると回る。

「え!?」
エリはリョーコの顔を見た。こっちを向いて、
舌をペロッと出した。 

リョーコは、手に持っていたキティちゃんの
小さなポーチを スポーツバッグの中に
入れたのだった。

(え? 万引き?)
エリは、呆然として立ち尽くしていた。
そのすぐ目の前で、 リョーコはキティちゃんの
ハンカチを 再びバッグに投げ入れた。
そして、エリの耳元でささやいた。

「大丈夫だよ、ここはカメラもないんだから」
監視カメラのことを言っているらしい。リョーコは、
「エリにもあげるよ」
と言った次の瞬間、棚のハンカチを掴んだかと思うと、 
エリのカバンにねじ込んだ。

エリは血の気が引くのがわかった。 
身体が強張って動かない。
気が付くと、リョーコは店の外へ何食わぬ顔をして
向かって行った。

「リョーコ」と言葉にならない声を発して追いかける。 
気づくと、駅前のハンバーガショップの
前まで来ていた。 

リョーコが言う。
「大丈夫だって~」 「・・・」
エリはまだ声が出ない。

「あの店はさあ、女の人が一人レジにいるだけでさあ、
奥の方は見えないのよ」 
「だって・・・だって、これって万引きじゃないの」 
「エリだって、持って来ちゃったんじゃないの?」

手にしたカバンから、ピンクのタオル地の
小さなハンカチが顔を覗かせていた。

「誰も見てないって」 
「だって」 「あそこの店はさあ、有名なのよ、
やりやすいって。みんなやってるんだから」 
「・・・」 
「じゃあ、明日またね」

リョーコはそう言うと駆け出して行った。
エリは、リョーコの言葉を心の中で繰り返していた。
「誰も見てない、誰も見てない」
その証拠に、店の人は追いかけても来なかった。

「誰も見てない、誰も見てない」
家に着くと、ますます恐ろしさが募っていった。 
でも、それを打ち消すように、何度も
心の中で呟いた。
「誰も見てない、誰も見てない」

そこへ、お婆ちゃんに呼ばれた。ドキリとした。
「え?」
何を言っているのか聞こえなかった。

「な、何、お婆ちゃん」 
「エリ、今日の昼ご飯は、デニーズに行こうかねぇ」 
「う、うん」 
「じゃあ、早く着替えておいで、玄関で待ってるわよ。
ちゃんと鏡も見ておいでよ」

制服から真っ白なTシャツと膝までのジーンズに
着替える。
心のモヤモヤは大きくなるばかりで、爆発しそうだ。

(どうしよ。お婆ちゃんに相談しようか。
でも、心配かけちゃダメだ)
「誰も見てない、誰も見てない」
と、まるで呪文のように繰り返す。

たしかに、誰も見ていない。 店員にも
気づかれなかったし、他にはお客さんも
いなかった。これからだって、黙っていれば
誰にもわからない。

「誰も見てない、誰も見てない」
ふと、姿見に映った自分の顔を見て驚いた。
真っ青な顔をしていた。 
それも少し黒ずんだような。エリはハッとした。

見ていた。
そうだ、見ている人がここにいた。 
誰も見ていなかったけれど、 私が見ていた。 
私の目が、私の心が見ていた。

「お婆ちゃん・・・」
エリは、蚊の鳴くような声で言った。
「どうしたの?何だか顔色がよくないね」 

「お婆ちゃん、デニーズに行く前にお願いがあるの」
勇気を振り絞って、すべてを話した。・・・ 



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