2018年10月30日火曜日

妄想劇場・一考編


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過去に起きていることから浮かび上がってくる
真実もある。・・・


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近年、夫が妻を殺したり殺人未遂を犯したりする事件が
目立っている。8月28日、札幌で49歳の夫が23歳の妻を
車の中で殴り続けて殺した。

妻は妊娠8ヶ月だった。29日には福岡県で車内で
口論になって車から降りた妻(45歳)を執拗に轢いた
53歳の夫が殺人未遂で逮捕された。
妻は重傷だという。

さらに30日には沖縄県で52歳の夫が酔って、妻を
アパート3階の自宅から突き落として殺人未遂で
逮捕される。

3日連続であちこちでこういう重大事件が起こって
いるのを見ると、…いらいらしているのか、あるいは
日本の夫婦関係に何かとんでもないことが起こって
いるのかと考えさせられてしまう。

夫から妻へのDVは、殺人件数こそ100件前後で推移
しているが、暴行においては毎年、増加の一途を
たどっている。平成27年には検挙数だけで3500件を
超えた。(内閣府男女共同参画局サイトより)

逃げたほうがいいとわかっていながら逃げられない
つい最近も知人であるミナさん(48歳)が夫からの
DVで苦しんでいることを知った。

結婚して17年、ひとり息子は15歳になる。
50歳の夫は小さな会社を経営しているが、
このところ業績はあまりよくないらしい。
ただ、夫の暴力は今に始まったことではない……。

「最初の暴力は結婚してすぐでした。
彼に頼まれたことを私が忘れたことに腹を立てて
平手打ちが飛んできた。びっくりして泣き出すと、
彼は平謝り。それから子どもが生まれたあたりまでは
まったく暴力はなかったんです」

ところが子どもを育てている渦中では、
いろいろなことがあった。子どもが泣き出すと夫は
イライラしてモノに当たる。ドアをバシンと大きな
音を立てて開け閉めしたり、ときにはコップを
壁にぶつけたこともある。

「夜泣きする子どもを抱いて外に出て、うろうろ
していたこともありました」
子どもにばかり手をかけている妻にいらついたのか、
酔って帰って授乳している妻を無理やり
犯したこともある。
そのときばかりは情けなくて泣いたとミナさんは
つぶやく。

ミナさんも働いていたため、子どもが1歳に
なったころ保育園に預けた。夫の暴力が
またひどくなったのは、子どもが小学校に上がった
ころからだ。

野球が好きな夫は、子どもにグローブを買い与え、
休みの日にはよくキャッチボールをしていた。
帰ってきて一緒にお風呂に入ってくれればいいものを、
自分だけさっさと風呂に入る。

汗だくの子が次に風呂に入るのをミナさんが
手伝おうとすると夫が爆発する。
「ひとりで入れろ。ビール!」

冷たいビールが遅くなると平手打ちが飛んでくる。
子どもが入浴していて目の前にいないから、
ときには髪の毛を引っ張られて床に倒された
こともあった。

その後は暴力が日常的にそれでもまだ、
そのころは一息つくと夫は謝ったものだった。
「オレはおまえを本気で愛してる」というのが
夫の口癖だった。ただ、最近はもはや暴力が
日常的になっている。

何が彼の暴力スイッチを押すのか、ミナさんにも
わからない。
息子もすでに気づいているが、夫は息子の前で
暴力はふるわない。息子が部活でいないときなどに
夫は突然、暴れ始める。

「私も働いているので顔はやめてと言っているのに、
スイッチが入ると彼自身、自分が何をしているのか
わからなくなるみたい」

階段から落ちて肩を脱臼したこともあるし、
前歯は何度折ったことか。彼女自身、これが
暴行だとわかっているし刑事事件にもなると
知っている。それでも彼女は逃げようと
しないのだ。

以前、取材したことのある女性は夫によって家に
軟禁状態だった。逃げる意欲があっても
逃げられなかった。だがミナさんは会社員である。

助けを求めようと思えばいくらでも場はある。
息子とふたりで逃げ出すことはできるはずだ。
あるいは暴行を受け続けて、逃げる意欲を
失っているのだろうか。

「逃げたほうがいいのはわかってる。
でも息子から父親を奪う決意がつかないんです。
あの人を支えられるのは私だけだとも思う。
私ががんばれば、夫はいずれ自分が何を
してきたかきっと気づいてくれるはずなんです」

自分を傷つける夫をそこまでかばう理由が
わからない。共依存になっているのかもしれない。

夫婦のことは夫婦にしかわからないという。
だが、これだけは言える。DVを我慢するのは
子どものためにもよくない。

子どもの心は傷つき、蝕まれていく。
そして暴力は体だけではなく、ミナさんの心の
奥深くまで傷つけるのだ。

暴力があったらすぐに逃げるべきだ。
警察や地域の女性センター、福祉事務所など
相談窓口はたくさんある。
配偶者の暴力を容認して幸せになった
人などいない。・・・



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「チッ!困ったものだな~。また、トイレかよ」

井口豊は、コンビニのオーナー店長だ。 以前は、
機械部品を製造販売する会社で、営業課長を
務めていた。
しかし、豊には学生時代からの夢があった。 
独立することだった。どんなに小さな店でもいい。

「一国一城の主になりたい」そう思って、コツコツと
独立資金を貯めてきた。 結婚するときにも、
彼女に自分の夢を語った。反対されるかな、
と少し心配だった。それを口にしたとたん、
婚約を破棄されるんじゃないかと。

でも、それは杞憂だった。
それどころか、「いいわねぇ」と賛成してくれた。 
そして、結婚。子供が早くできたこともあり、
なかなか貯金は貯まらなかった。

それでも、いつか、いつか・・・」と夢を育んできた。 
それが叶って、三十七歳のとき晴れて大手の
フランチャイズに加盟し、 コンビニを開業する
ことができた。オープンとともに売上は順調だった。

何より大きかったのは立地である。 
大学の正門前のつぶれた書店の後に出店したのだ。
何より、豊が苦労したのは、アルバイトの確保である。 
いつの世も「最近の若い者は」と口にするが、
これが豊の口癖だった。

なかなか定着しないのだ。せっかく目の前の
大学の学生を雇っても、 すぐに辞めてしまう。
仕方なく、最近では、年配の人を雇っている。

「チッ!困ったものだな~。また、トイレかよ」

3ヶ月ほど前、アルバイトに63歳のオバサンを
採用した。 本当は雇いたくなかった。
オバサンは動きが遅い。 それに時代に対する
感覚が鈍い。

常に、流行の最先端を追い求めるコンビニ商品に
付いて行けないと思っている。 しかし、背に腹は
代えられない。 オープン以来、働いてくれていた
女の子が海外に留学してしまったのだ。

「浅野さ~ん、早く早く!こっちのレジも開けてよ!
お客さん並んでるよ~」 「はいはい、
今行きますよぉ~」

「浅野さん」と呼ばれたオバサンは、 トイレから
出てくると小走りにレジへ向かった。 
両手をハンカチで拭きつつ。

豊は顔をしかめた。 わかってはいる。
承知しているつもりだ。 人は歳を取ると、
小便が近くなる。

豊の田舎の両親も、夜中に交互にトイレに行く。 
しかしだ。それにしても、浅野千代子の場合は
回数が多過ぎはしないか。

わざわざ数えているわけではないが、1時間に
一回はトイレで行っている気がする。

「は~い、お待たせしましたねぇ。
並んでいるお客様~、こちらのレジに
お回りくださいね!」

たしかに、接客態度はいい。少々下町風で、 
その馴れ馴れしさを嫌がるお客さんも
いることは事実だ。
でも、「最近の若い者」のように、あいさつ一つ
できないのと比べたら有難いと思うべきだった。

(さすがに「トイレに行くな」とはオバサンに
向かって言えないしなあ)
豊はグッと言葉を飲み込んでレジを打った。

「はいはい、このプリン美味しかったわぁ~。
私も昨日食べたばかり」 
「よかった。迷ったけど楽しみ!」

たしかに、あのフレンドリーな感じは、
おおむねプラスだ。
(プラスマイナス、ゼロってところかな)

豊は、浅野のオバサンが、何度もレジを離れて
トイレに行くことに、 しばらく目をつむって様子を
みることにした。

オバサンを雇った翌月くらいから売り上げが
伸びているのだ。 売上と浅野のオバサンには
何の関係もないが、・・・

「何度トイレに行ったら気が済むんだ!」 
と言いそうになるのを思い留めるには十分な
理由だった。
(売上が上がっているんだ、今は我慢しよう・・・
疫病神とは言えないし)

その翌日のことだった。

小さな小さな事件が起きた。万引きが発生したのだ。 
近くの中学生が、マンガ雑誌をスポーツバッグの中に
忍ばせて店を出た。

たまたま、駐車場のそうじをしていた豊がガラス越しに
不審な様子を認め、 少年が外へ出たところを
問いただしたのだった。

店の中へと連れ戻す。そこへ浅野千代子がトイレから
出てきた。 豊の心の中で、プチンッと何かが
切れる音がした。

「浅野さん! 前から言ってるだろ! 
お客さんが少ないときでも、 あんたがレジから
売り場を見渡してるようにって!」

浅野のオバサンは、事態を察したようだった。
「あらあら、ボクどうしちゃったの?」 
「・・・」少年は下を向いている。

「いいですよ、この子のことは! 
上の事務所に連れて行って、親御さんに連絡するから、
レジをちゃんとお願いしますよ!  

それからいいですか! そうそう何度もトイレに
行かないでよ。少しくらい我慢できるでしょ!」
そう言ってから、豊は少し後悔した。

しかし、「はいはい、わかりました。  
ボク、ちゃんと店長さんに謝りなさいよ」
と笑顔で言うのを見て、ガックリした。

万引き事件が片付いて、ホッとしていたところへ
バイクの集団が 駐車場へ入って来た。6台。 
中には、大型のハーレイも。
全員が黒いツナギを着ている。

ちょっと見は暴走族風だ。ガラの悪いお客様は
歓迎したくないが、 見てくれで人を判断する
わけにはいかない。

店に入ってくるなり、リーダーらしき大柄の男が、
他のメンバーに言った。

「ここのトイレはよお~、いつもキレイだから
気に入ってるんだ。  
ちょっと家からは離れてるけど、ついついここへ
来ちゃうんだよな」 
「リョウさんはオシッコが近いからね」
と、髪の毛を真っ赤に染めている男が言った。

「バカヤロー」 
「へへヘ・・・。オレ、買い物してますから、
ゆっくり行っててください」

そこへ、浅野のオバサンがトイレから出てきた。
「おう、オバチャン、いつもトイレ掃除ご苦労さん!」 
「今、キレイにしたばかりだからね、外に
こぼしちゃダメよ!」 「わかってるよ」

豊は、二人の会話を聞いてハッとした。
(まさか・・・。毎時間のようにトイレに行っていたのは
・・・掃除をするため)

そのすぐ後、セールスマンと思われる若い
男性二人が、車を止めて入って来た。 
そして、先輩と思しき年上の方が言った。

「このコンビニはさあ、いつもトイレがキレイだから、  
ついつい来ちゃうんだね。覚えとくといいよ」

豊かは、しげしげとオバサンの顔を見た。 
その笑顔が、急に福の神に見えた。



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